【書評】下町ロボット [著]沼井田淳 これは嘘ニュースです
下町ロボット [著]沼井田淳
いきなり前言を翻すようだが、二足歩行ロボットがプラモデルのように作れるようになった今でもなお、「完全にオリジナルな」ロボット製作は難しい。それは本体設計だけでなく、その体勢を制御するコンピューターのプログラミングまで必要とする先進技術の結晶であるからだ。
優勝賞金3千万円を目当てにロボコン参加を決めた畑製作所の職人達。一からロボットを作りあげる苦心と興奮を味わえるかと思いきや、冒頭からその作り方をめぐって「全て中国に製造委託」と「部品に使う鉱石と精錬も全て純国産」という両極端な主張の対立(と言うより口論)が、延々と87ページにわたって続く。読者として不愉快で仕方ないが、この工場が借金を背負うことになった原因が、この不毛によるものだと考えれば納得もいく。
ページをめくる苦痛を乗り越えると、いよいよ物語はロボット製作に。設計図らしき設計図がないにもかかわらず、ねじやバネなどの部品が1千分の1ミリ単位で誤差なく作られていくメイドインジャパンの底力には舌を巻かざるを得ない。
そしてまたBASICで組んだ体勢制御のプログラミングが上手く動かず、世界最高品質のロボットが「まるで脚をもがれた蟻のように」地べたを這いつくばる姿には、ソフトに弱いメイドインジャパンの物悲しさを感じざるを得ない。かつてiPodにも採用されたという鏡面仕上げのボディも空しく光るばかりだ。
度重なる苦心の末、とうとう完成させたロボット「おおきに1号」の初戦は、優勝候補の東大工学部大学院チーム。ディープラーニングによる卓越した制御技術はシリコンバレーからも熱い注目を浴びる。
優勝候補の一角を前に「技術やない。勝ったらええんや、勝ったら」と作品のテーマをぶち壊す台詞と共に、懐から釘と玄翁(げんのう)を取り出した78歳のリーダー・橋本が浮かべる不敵な笑みの意味するところは。果たしておおきに1号はロボコンを勝ち抜き、3千万円を手に入れることができるのか。国産技術の優秀さを語りつつ、その一方で技術の優劣だけが勝負ではないという社会の現実を突きつける快作だ。
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洗熊文庫・864円