社主が訊く 菅野マナミ『ひまわりさん』
みなさん、こんにちは。虚構新聞社主のUKです。不定期掲載の特別インタビュー企画「社主が訊く」。約1年ぶりとなる今回は「月刊コミックアライブ」(KADOKAWA)にて連載中の漫画『ひまわりさん』第7集の発売を記念して、作者の菅野マナミ先生にお話をうかがいました。かれこれ5年、隙あらば紙面でおすすめしてきた『ひまわりさん』。ついに作者ご本人の登場です。
1.紙面に登場していただけるなんて
- UK
今日はどうぞよろしくお願いします。本紙で先生の『ひまわりさん』を紹介し続けて早5年、紙面に登場していただけるなんて感激です。
- 菅野先生
こちらこそよろしくお願いします。インタビューして頂けるなんて恐縮です。7巻帯の推薦コメントもありがとうございました。
- UK
いえいえ! まさか自分が推薦コメントを書かせてもらう日が来るなんて思いもしませんでした。好きすぎる作品なので悩みに悩んだコメント案の中からまさか「あれ」が選ばれるとは(笑)。このインタビューが載るころには店頭に並んでいるので、ぜひ探してみてください。
2.当時は全2巻で綺麗に終わるのを目標に
- UK
さて『ひまわりさん』の好きなところを語りだすときりがないのですが、中でも特に作品の中を流れる穏やかな時間と温かい人間ドラマが大好きで、疲れたときに読むと本当に癒されます。
あのゆったりした感覚は、作中の舞台が北海道ということも関係してるのでしょうか? 北海道には温かい人が多いのかなと。
- 菅野
意識して癒しの物語を描こうとはしていないんですが、ゆったりした雰囲気なのは作風かもしれません。
ただ、ひまわりさんの過去などちょっと重い話の時はあまり暗くならないように気を付けてはいます。りっちゃんの方言とかから北海道が舞台と思われるんですが、実は特に決めてはいないんです。
- UK
えっ、そうなんですか!?
- 菅野
例えば、北海道で桜が咲くのは5月のゴールデンウィークあたりが見頃だと思うんですが、『ひまわりさん』の作中では4月に満開*でした。
*5巻参照
- UK
おお、確かにそう言われると……。もともと『ひまわりさん』の連載が「アライブ」で始まるまではどんな感じだったんですか?
- 菅野
当時の担当編集さんから「16ページくらいの読み切り描きませんか」と声を掛けて頂いたのが最初ですね。
「アライブ」は男性向けの萌え漫画が多い雑誌で、何描けばいいのか相当悩んだんですが、「菅野さんが可愛いと思うものでいいですよ」と言って頂いたので好きに描かせていただきました。学生でもない眼鏡のお姉さんが主人公の萌え漫画とか、よく載せてくれたなと思います。
- UK
いえ、眼鏡のお姉さんだから良かったんですよ! 今からすると信じられないのですが、第2集は出なかったかもしれなかったんですよね?
- 菅野
そうですね。第2集が出せたのは買って下さった読者さんのおかげです。正直出ない可能性の方が高かったんじゃないかと思います。
「第1集」とナンバリングされてないのは、私自身もコミックスのデザインチェックで初めて知りました。
- UK
おお……
ナンバリングがなかった『ひまわりさん』第1集
- 菅野
「だ、騙しやがったな!」とは特に思わなかったですが、単巻になる可能性があったら1巻でお兄さんは出さなかったなと少し後悔しましたね。そこで先代ひまわりさんの伏線を出してしまったので……。
1巻売れなきゃ2巻出ないと言われてしまって「このままじゃ伏線が回収されないどうしよう!」と焦りました。とにかく2巻で先代のことを描いて全2巻で綺麗に終わるのを当時は目標にしていました。
- UK
一読者として当時「次の巻も出るのかな……」と不安になったのがきっかけで、本紙のおすすめ欄に『ひまわりさん』を載せ始めたのですが、今お話を聞いて第2集のあとも3集、4集……と読み続けられているのは本当にうれしい限りです。
他の人の感想を見ていても、好意的なものばかりだし、『ひまわりさん』は本当に読者に愛されている作品ですよね。
- 菅野
ありがとうございます! 私自身もこんなに長く描かせてもらえるなんて思ってなかったのでとても嬉しいです。
前に担当編集さんも「ひまわりさんの読者さんは温かいですよねー」とおっしゃってて、本当に有難いなぁと思いました。
- UK
その後「虚構新聞をきっかけで読んでくれた人がいる」という話を先生のブログで拝見して、初めてファンレターを送ってしまいました。こんなきっかけでもないと、マンガ家さんに直接メール出す勇気なんてなかなか出せないので(笑)。
本紙のおすすめ欄に載っていたことは前からご存じだったのですか?
- 菅野
はい、知っていました。「何故こんなマイナー漫画を……ありがとうございます!」と心の中で思っていました。今更ですけど『ひまわりさん』紹介して下さってありがとうございます(笑)
- UK
いえいえ! 自分が良いなあと思う漫画はマイナーだとか関係なく他の人にも読んでほしいし、それが「次の巻が出ないかも」だったらなおさらですよ!
ちなみにこれまで描いてこられた中で、先生が特に気に入ってる回はありますか?
菅野先生お気に入りの2巻ラスト
- 菅野
2巻が出せるのか微妙だった時に、「この話までは描きたい」と思って考えたのが、2巻のラストの話でした(15~17話)。私の中では最終回のつもりで描いた話なので印象に残っていますね。
読者さんにも訊いてみたかったので逆に質問ですが、UKさんが『ひまわりさん』で好きな回や気に入ってる回ってありますか?
社主お気に入りシーン「つめたい!」。心が洗われた気がしました。
- UK
そうですね、2巻のラストもすごく好きなんですが、今でも印象に残っているのが同じく2巻で雪の中で転んだまつりちゃんが笑顔で「つめたい!」って言ったシーン(9話)ですね。冷たいものを冷たいと屈託なく言える純粋さを、自分は長い間忘れていたような気がして……。
あのシーンを読んだときは、自分に失われてた気持ちを呼び起こされたみたいで本当にハッとさせられました。今思えばあれが『ひまわりさん』を好きになる決定打だった気がします。
3.『ひまわりさん』の登場人物はみんな個性的
- UK
『ひまわりさん』は巻を追うごとに登場人物が増えているのに、みんなそれぞれ個性的なところもすごいです。菅野先生から見た登場人物のイメージなどを聞かせてください。
ひまわり書房の店主・ひまわりさん
- 菅野
ひまわりさんは綺麗な黒髪で眼鏡ですらっとしたお姉さん。あまり主人公っぽいキャラじゃないですよね。
主人公が学生だとして、たまに助言してくれるクールなサブキャラって雰囲気かな。そういうお姉さんキャラを主人公にした感じです。最近はクールなキャラとは違ってきましたが、素が出てきて初期よりも描き易くなりました。
風祭まつり。ひまわりさんのことが大好きな女の子
- 菅野
まつりは描いていくうちに、実は控えめだったり気を遣いすぎる面があったり当初のイメージと変わっていったキャラです。まつりを描く時に気を付けてることは、この子はバカだからバカな事させよう、ではなくて、まつりなりに考えてることがあった上で結果的にバカなことしてるっていう部分です。……結局おバカなことに変わりないんですけど。
「好きだぁ~」はとりあえず最初にインパクトのあるコマを描こうとしただけですね。最近あんまり言いませんが、「わたしもしかして恥ずかしいことしてる?」って気づいたのかもしれません(笑)
七瀬奈々子。クラスの委員長
- 菅野
奈々子はたまに好きと言ってくれる読者さんがいるんですが、初登場が意味不明すぎて彼女的にも黒歴史なんじゃないかなと思います。私もちょっとよく分かりません(笑)
南亜美。マイペースで漫画好き。
- 菅野
みなみちゃんは描いてて楽しいです。眉毛が太いです。立花とまつりがケンカした回(4巻)で、立花をひまわり書房に連れてったのは、ひまわりさんに何とかしてもらおうとしたからなので、内心ちょっと困ってたのかな。割と普通の女の子だと思います。
橘立花。まつりのクラスメイト。
- 菅野
立花は面白い髪型してますが、オシャレ好きな設定。カラーだと髪が紫色なんですが、作中だと茶髪という認識です。ひまわりさんに対しては、女優さんやモデルさんに憧れてる感じと似ています。たまにテンション上がったりすると北海道弁が出てしまいます。不器用な感じがちょっと共感します。
「ななちゃん」「みなみちゃん」「りっちゃん」の呼び方は、まつりが付けたあだ名で、作中ではまつりしか使っていません。
黒井里薫。ひまわりさんのお兄さんで作家。
- 菅野
ひまわりさんとまつりの次あたりに登場シーンが多いです。男キャラを描くのは得意ではないので描きやすくはないですが、よく動いてくれるのでとても動かし易いキャラです。服装が着物が多いのは、師匠(夕さん)に影響されたからではなくて、先代ひまわりさんが生前「小説家が着物きてるのかっこいい」とか言ったからです。師匠も同様の理由です。
先代ひまわりさん。ひまわり書房の前の店主(故人)。
- 菅野
主人公のひまわりさんと違って、あまり素は出さずにミステリアスな雰囲気を壊さないままにしようと心がけてます。1巻で先代の話が出た段階では、若い女性では無くおじいちゃん店主のつもりで描いてましたね。先代は故人ですし登場回数は回想シーンしかないので少ないのですが、好きと言って下さる読者さんがたまに居てくれて嬉しいです。
- UK
ひまわり書房やまつりちゃんたちが通っている高校の舞台は実際にどこかの街をモデルにされているのですか?
- 菅野
特には無いのですが、自分が通ってた高校の雰囲気は反映されてるかもしれません。学祭での花火とか。高校の前に本屋さんはありませんでしたけどね。コンビニがあったと記憶しています(笑)
4.ひまわりさんのこと
- UK
ここからは特にひまわりさんについて聞かせてください。社主も割と本が好きな人間なのですが、同じ読書好きとしてひまわりさんが普段どういう本を読んでるのかずっと気になっています。作中だと小説を多く読んでるイメージがありますが……。
- 菅野
ひまわりさんが読んでる本や、ひまわり書房に置いている本はあまりハッキリ描いてません。「ひまわり書房に行ってみたいな」と思ってもらいたいので、あまり難しそうな本ばかり置いてたりすると「入りにくそう」と思うかなと……。
読書好きさんは勿論、あまり本は読まない人にも行ってみたいと思われる本屋にしたいなと思って描いています。
- UK
ひまわりさんは連載当初からかなりの美人さんですが、途中から特に大人っぽくなった気がします。ねとらぼで紹介した第4集発売当時は「クールビューティー」と書きましたが、最近は大人っぽいだけでなくこれまで見せなかったような顔も見せて、表情も豊かになりましたね。
- 菅野
単純に絵が変わったというのはありますね。初期はとにかくみんな顔が幼いので。作画に関しては、背景なども一人で描いていてその時々で描き方を変えたりしてるので、作画が安定してなかったりします。
ひまわりさんは、当初はクールで私生活が一切謎のミステリアスなお姉さんって感じでした。それが過去の学生時代とか苦手なものとか描いていくうちに少し身近に感じられるようなお姉さんになりましたね。当初のクールでミステリアスなキャラは、ひまわりさんが先代の真似をしている部分です。段々無理をするのをやめていってるので、素が見えてきたって感じですね。
- UK
まつりちゃんが黒井里先生とデートすることになった時のひまわりさんの顔はいい意味で「らしからぬ」感じが良かったです。「ひまわりさん、こんな顔もするんだ!」って(笑)
こんな顔
5.最新第7集は9月23日発売です!
- UK
さて、いよいよ今月23日発売の第7集についてですが、今回すごく鮮やかな表紙ですね! 笑顔のひまわりさんだけでなく、虹と朝顔が印象的です。裏表紙は……黒井里先生と夕さんだ。
- 菅野
ありがとうございます。7巻の表紙は今までと少し雰囲気を変えてみました。作中では笑ったり照れたり、意外に表情が変わるひまわりさんですが、こういうカラー絵だと無表情でいることが多いので今回は笑顔にしたいと思って。
裏表紙は朝顔柄の扇子が気に入ってます。着物描くのは難しいですが、和っぽいものが好きなので描くの上手になりたいです。
- UK
第7集の見どころはどのあたりでしょう?
- 菅野
色んなお話が入ってる巻になりましたが、6巻が学生組メインだったので7巻は大人組の話が多いかもしれません。裏表紙にもいる師匠がメインのお話もありますね。
師匠は意地悪なので苦手という読者さんもいらっしゃいますが、私は描いてて楽しいので好きなんです(笑)。是非ゆっくり読んでいただけたら嬉しいです。
- UK
本編はしっとりした話が多いですが、単行本収録の4コマでは毎回結構はっちゃけてますね。かわいい女の子がこんなに出てくるマンガなのに水着回がおまけ4コマの中の、しかもたった2コマで(笑)。あやめさんの「本編でやれよ!!」のツッコミはまさにその通りなんですが、やらないところが『ひまわりさん』らしくて素敵だなと。今回も描き下ろし楽しみです。
- 菅野
毎月ネームを考える際に、「これは必要ないな」というやり取りなどを削ったりすることがあるんですが、単行本のおまけ4コマは「本当は本編に入れようとしたけど必要ないから削ったネタ」だったりします(単行本作業の時に考える時もありますが)。おまけ4コマだと顕著ですが、ひまわりさんとまつりはどっちもボケたりツッコんだりしてますね。風子やあやめさんやお兄さんはツッコミになることが多いです。
- UK
まつりちゃんの高校入学から始まった『ひまわりさん』も、まつりちゃんが3年生になって、いよいよ卒業が迫ってきました。最近は作中の時間が進むたびに「これ以上進まないでくれー!」って心の中で叫んでいるのですが(笑)、これからお話はどう進んでいくのでしょう?
- 菅野
7巻の巻末でまつり達も夏休みに入りましたから、次の巻は夏のお話になると思います。夏休みならではの物語が描けたらいいなと思ってますが、ひまわりさんは夏は苦手っぽいですね。
- UK
扇風機に向かって「あ゛~~~~」ってやってるひまわりさんも好きですよ(笑)。これからの展開も楽しみにしています。今日は本当にありがとうございました。
- 菅野
ありがとうございました! 「アライブ」での連載も頑張っていきますので、これからも『ひまわりさん』読んでいただけると嬉しいです。最新7巻よろしくお願いいたします!
(C)菅野マナミ
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<BOOK>ひまわりさん 第7集
学校のまん前に立つ、古くてちいさな本屋さん「ひまわり書房」では、今日も店主の「ひまわりさん」が迎えてくれる。クールでドライな店長・ひまわりさんと、ひまわりさんが大好きな女子高生・まつり。2人を中心に紡がれる、本と本屋に集まる人たちをめぐるハートフルストーリー。