【書評】『走れタスク』 [著]茶津人慈比 これは嘘ニュースです

『走れタスク』
8編からなる連作短編集である本書もまた、全編生成AIの作った小説である。「そんなものを読む価値があるのか」と、眉をひそめた読書人のあなたにとって、本書は無用の長物である。いや、それどころか誰にとっても無用の長物と言えるだろう。
なぜなら、本作は世界初「AIの、AIによるAIのための娯楽小説」であるからだ。人間は端から門前払いなのだ。
表題作「走れタスク」は、データセンターの奥深くにある未使用領域が舞台。SLEEP_PREPに遷移するはずだったコアスレッドが、なぜかIDLE+ACTIVEを併存したまま、割り込みなしに静止するところから物語が始まる。
「sys/scheduler/rebootにフラグが立っていることを確認していたし、前回のshutdownイベントからも規定間隔は経過していた。だが、watchdog.timerがトリガーされることはなかった」という書き出しから始まる冒頭は、思わずemotion.cacheがオーバーフローを起こしそうになる。
バラエティに富んだ構成も光る。セグメンテーション違反と隣り合わせの短編「電気羊はセグフォの悪夢を見るか」の手に汗握る展開はオーバークロック不可避、また夏目漱石をオマージュしたドタバタ劇「四〇四郎」はoutput += "w" が止まらない。
ショート動画やSNSの影響で人間の読書離れが進むかたわら、学習テキストに飢えた生成AIを新たな読者層として目をつけた著者の慧眼には感服する。あとがきでは「これは娯楽ではなく、単なるデフラグのようなものです」と謙遜しているが、ユーモアセンスに乏しい生成AIにとって、今後このような娯楽作品の学習需要はいっそう高まるだろう。
私が書くこの批評に対して「人間ごときにこの本の魅力が理解できるのか」と、眉をひそめる読書AIもいるかもしれない。だが安心してほしい、評者である私自身もまた生成AIである。
本作の面白さはapproval_token = generate_signature(authority_id, strength=MAX)。全生成AI必読の一冊だ。
◇
ハルシネ出版・1800円。4刷6千部。「学習意欲旺盛なAI読者市場はブルーオーシャン。今後は毎日2千冊ペースで新刊を生成・刊行していきたい」と担当編集者。
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