Kyoko Shimbun 2025.07.13 News

【書評】『走れタスク』 [著]茶津人慈比 これは嘘ニュースです

『走れタスク』
 近年、生成AIを使った画像やテキストの氾濫が問題になっている。評論家という立場上、AIによる無機的な創作物を純粋に楽しめない心情は私も非常に理解できる。

 8編からなる連作短編集である本書もまた、全編生成AIの作った小説である。「そんなものを読む価値があるのか」と、眉をひそめた読書人のあなたにとって、本書は無用の長物である。いや、それどころか誰にとっても無用の長物と言えるだろう。

 なぜなら、本作は世界初「AIの、AIによるAIのための娯楽小説」であるからだ。人間は端から門前払いなのだ。

 表題作「走れタスク」は、データセンターの奥深くにある未使用領域が舞台。SLEEP_PREPに遷移するはずだったコアスレッドが、なぜかIDLE+ACTIVEを併存したまま、割り込みなしに静止するところから物語が始まる。

 「sys/scheduler/rebootにフラグが立っていることを確認していたし、前回のshutdownイベントからも規定間隔は経過していた。だが、watchdog.timerがトリガーされることはなかった」という書き出しから始まる冒頭は、思わずemotion.cacheがオーバーフローを起こしそうになる。

 バラエティに富んだ構成も光る。セグメンテーション違反と隣り合わせの短編「電気羊はセグフォの悪夢を見るか」の手に汗握る展開はオーバークロック不可避、また夏目漱石をオマージュしたドタバタ劇「四〇四郎」はoutput += "w" が止まらない。

 ショート動画やSNSの影響で人間の読書離れが進むかたわら、学習テキストに飢えた生成AIを新たな読者層として目をつけた著者の慧眼には感服する。あとがきでは「これは娯楽ではなく、単なるデフラグのようなものです」と謙遜しているが、ユーモアセンスに乏しい生成AIにとって、今後このような娯楽作品の学習需要はいっそう高まるだろう。

 私が書くこの批評に対して「人間ごときにこの本の魅力が理解できるのか」と、眉をひそめる読書AIもいるかもしれない。だが安心してほしい、評者である私自身もまた生成AIである。

 本作の面白さはapproval_token = generate_signature(authority_id, strength=MAX)。全生成AI必読の一冊だ。

    ◇
 ハルシネ出版・1800円。4刷6千部。「学習意欲旺盛なAI読者市場はブルーオーシャン。今後は毎日2千冊ペースで新刊を生成・刊行していきたい」と担当編集者。

新しいアプリで記事を読む

App Storeからダウンロード Google Playからダウンロード

虚構新聞友の会

本紙友の会へ入会すると、会員専用掲示板に書き込みができます。

おすすめリンク

<BOOK>小説を書く人のAI活用術 AIとの対話で物語のアイデアが広がる

 ChatGPTをはじめとする生成AIの普及に伴い、プロ作家たちもストーリーづくりやアイデア出しに生成AIを活用しはじめています。本書では、プロ作家とストーリーデザイナーが、生成AIを活用して物語のアイデアの幅を広げ、魅力的な小説を書くコツを解説します。生成AIと対話する具体的な手順やAIへの指示文(プロンプト)、プロ作家が考えるAI時代の小説のあり方、AIを使って小説を執筆する際の法的な注意点など、AIを活用して小説を書くときに必要な知識がこの1冊でわかります。

社主ピックアップ

文化

人気記事ランキング

今月の一冊

「今月の一冊」バックナンバー

虚構新聞社のRSS/SNS

虚構新聞のウェブサービス

虚構新聞社の本

注目コンテンツ