レジから商品補充まで 完全セルフコンビニ、2カ月で閉店 これは嘘ニュースです
閉店日、ほぼ全ての商品が盗まれたため陳列棚は空だった
「短い間でしたがご愛顧ありがとうございました 店主」
11月30日早朝、完全セルフコンビニ「アガペーストア 井川店」の入口には閉店を告知する張り紙を張るオーナーの安部さん(65)の姿があった。
「善意に頼りすぎました」
かつてはレジ打ちと品出し・補充が主だったコンビニの業務だが、今では宅配便からATMまで取り扱いの幅が広がっている。さらに店内にキッチンを備える店舗も増えており、調理まで任されるようになると、「割に合わない」と辞めるアルバイトが増えた。人件費も年々高騰していることから、安部さんは店員ゼロの完全セルフコンビニとしてリニューアルすることを決めた。
「元々ここには近くの人しか来ないですし。昔キャベツの無人販売所をやっていた頃、売れた数と料金箱に入っていた100円玉は同じでした。誰も見ていなくてもお天道様は見ているんです」
レジや弁当の温めだけでなく、商品の補充まで全て客に任せる「自治型」は全国でも珍しい試みだったが、アルバイト経験のある客が他の客を助けたこともあり、開店2週間での売り上げはリニューアル前の3倍に達した。浮いた人件費は商品を値下げすることで還元。おにぎり1個が40円、ハンバーグ弁当が170円。いずれも大手コンビニに比べて半額以下だ。
しかし、開店3週間後の10月下旬、善意の支え合いでうまくいくかに見えたアガペーストアに大きな変化が起きた。売れた商品と売り上げ額が大きく食い違うようになったのだ。
「万引きがはびこりました。どうやらインターネットに『無料配給所』と書かれたみたいで」
この頃から都市部から来たとみられる若者の姿が目立つようになった。在庫の変動から万引きが本格化したのは10月22日前後。ほぼ同時期、インターネットの掲示板上に「この店、防犯カメラないやんけwww」という書き込みが見つかった。客を犯罪予備軍と考えたくないという安部さんの思いが裏目に出てしまったようだ。11月に入ると全食品が完売したにもかかわらず、売り上げゼロを計上した日もあった。閉店するしかなかった。
「この中の半分くらいは万引きしてますよ」
さびしそうに閉店を見守る近所の住民を指して向ける眼差しに、かつての温和な安部さんの面影はなかった。
店舗は来年1月のリニューアルオープンに向けて改装の最中だ。客が勝手に具を取らないようおでん台に導入する赤外線センサーや、店内300か所に配置する8K防犯カメラの選定など準備に余念がない。金額不足や清算ミスで床に電流が流れるセルフレジも導入、入退店に虹彩認証が必要な世界最高度のセキュリティを誇るコンビニになるという。
「人っ子ひとり寄せ付けないフレンドリーな店にします。二度と失敗は繰り返しません」
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<BOOK>コンビニ人間
36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしいと突きつけられるが…。「普通」とは何か? 現代の実存を軽やかに問う衝撃作。第155回芥川賞受賞。