Kyoko Shimbun 2013.10.08 News

余命2ヶ月の少女、ボーカロイドとして生きる これは嘘ニュースです

ボーカロイド「初音ミク」
 難病によりあと2か月の命と診断された13歳の少女が、「初音ミクになりたい」という夢を叶えるため、連日スタジオ収録に臨んでいた。彼女が生きた13年という生涯の軌跡を追った。

 記者が初めて出会ったとき、彼女はまだ12歳の小学6年生だった。やや大人びた外見とは裏腹に性格はまだ幼く、その落差が返ってこの年頃の少女特有の雰囲気を漂わせていた。

 生まれつき心臓に難病を抱えた彼女は週に2日程度地元の小学校に通っていたが、それ以外は自宅で静養する日々を送っていた。そんな彼女が楽しみにしていたのは、動画サイト「ニコニコ動画」に日々アップされる「ボカロ曲」と呼ばれる歌を聴くことだった。

 「ボカロ」とは、ボーカロイドと呼ばれる音声合成技術のことで、2007年発売のソフト「初音ミク」は、そのキャラクターも含め中高生を中心に大きなムーブメントを巻き起こした。今もなおその人気は衰えず、毎日多くのオリジナル曲が発表され続けている。

 自身を「ボカロ厨」と呼ぶ彼女は作曲はできないものの、気に入ったボカロ曲を何度も繰り返し聴き続けていた。「200曲くらいなら歌詞がなくても歌えるよ」と自信ありげに話す彼女の笑顔が印象的だった。

 その後しばらく多忙が続いたため、記者と彼女の距離は遠のいていたが、今年3月、彼女の母親から「娘が会いたがっている」という内容のメールが届いた。彼女に残された時間が2か月しかないということを知らされたのもこの時だった。

 自宅を訪れると、中学に進学して13歳になった彼女が出迎えてくれた。以前取材に訪れたときに比べて身体全体が細く薄くなっており、死の影が迫っていることをありありと感じさせた。彼女も自分がそう長くないことを悟っているためか、記者に会うなり「初音ミクになりたい」と率直に話した。これほどしっかりとした声を聞いたのは初めてだった。

 記者が「それならまずコスプレ衣装を…」と言いかけると、彼女は「じゃなくて、ボカロになりたい」とさえぎった。「自分が生きた証として、自分の声だけでも遺したい」というのが彼女の願いだった。録音のための機材は、彼女の一生のお願いを受け止めた両親がすでに買い揃えていた。収録用のスタジオも1か月間貸し切ってあるという。

 その日から始まった連日の収録作業は過酷を極めた。ボカロ用の音声を収録するには、数十種類に及ぶ音階と母音・子音の組み合わせが必要になる。健康な大人でも耐えられないような収録スケジュールに伴い、いよいよ衰えの影が深くなっていく彼女だったが、決してマイクから離れようとはしなかった。

 収録27日目。ボカロを構成するのに必要な音声が全て整った。数日前から点滴のみで栄養を補ってきた彼女の頬が少し紅潮したように見えた。

 2か月分の生命力をこの1か月で使い果たしてしまったのだろう。翌日、ボカロにあこがれた少女はその声だけをこちらに残し旅立っていった。

 来年1月、少女はボーカロイド「絹音サラ」として、2度目のデビューを果たす。

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