Kyoko Shimbun 2014.01.10 News

「踏んでも痛くない」 日本最後の画びょう職人語る これは嘘ニュースです

日本最後の画びょう職人・板倉実さん(98)
 掲示物を壁に貼り付けるときには欠かせない文房具・画びょう。しかしこの画びょうを1つ1つ丹念に手作りする「画びょう職人」が存在していることを知る人は少ない。技術を受け継ぐ後進が育たなかったため、今まさに失われようとしている画びょう職人への取材を試みた。

 群馬県邑楽(おうら)郡。日本最後の画びょう職人・板倉実さんは、この地の人里離れた山奥に一人居を構える。板倉さんは今年で98歳。15歳のときに職人を志し、以来80年以上にわたり、ただひたすらに画びょうだけを作り続けてきた。

 画びょう職人の朝は早い。板倉さんが作る画びょうはまず素材の選別から始まる。主な素材は銅だが、これらに20種類を超えるさまざまな金属を少量加えることによって最高の画びょうが完成する。その配合率は代々職人の家系のみが知ることを許された一子相伝。少しでも配合を誤ったり不純物が混じったりすると、錬成の過程で針にわずかな歪みが生じることから、この金属への選別眼を身に着ける前に工房を去ってしまう見習い職人も多いという。

 金属の配合が終わると、次は画びょうの製作に入る。部品は主に針の部分と、「レコード」とよばれる平面部の2つに分かれ、その表面にあるミクロン単位の凹凸を皮膚感覚のみで完璧に磨き上げる。ここまでの過程に丸4日。最後にこれら部品を結合させることで、やっと1つの画びょうが完成する。

 板倉さんら職人が作る画びょうの最大の特徴は「踏んでも痛くない」ということだ。市販のものとは異なり、板倉さんの画びょうはその滑らかさから、踏んでしまっても痛覚を司る神経が刺激を感知しない。そのため、足の裏だけでなく体のどの部分に刺しても痛みがないのだ。板倉さんによると、かつてこの工房が多くの職人でにぎわっていた頃には、1年間画びょうを踏んでいたことに気づかなかった者や、いたずら心から坊主頭をびっしりと刺した画びょうで埋め尽くしていた者もいたという。

 自分が日本最後の画びょう職人になったことについて「世の中が大きく変わってしまった」と、板倉さんは話す。まるで糠(ぬか)に釘を打つかように針が壁に吸い込まれる手作り画びょうは、かつては3年待ちになるほど注文があった。

 だが戦後、機械による安価な画びょうの大量生産が始まったことに加え、嫌いな相手の靴やトゥシューズに画びょうを入れる嫌がらせが女性の人気を集めたことから、痛くない画びょうへの需要が大きく低下した。板倉さんのところにも、普通のものより痛い画びょうを作ってほしいという依頼が来たため、針の表面に仕込んだ細かい溝にトリカブト毒をしみこませた「殺人画びょう・無限刃」を作った時期もあったが、30人を超える犠牲者を出して社会問題に発展したため、製作を辞め、人目を避けるようにしてこの地に移り住んだ。長らく携帯電話の電源も入れていない。

 以来、今日まで板倉さんは痛くない画びょうだけを作り続けている。80年以上画びょうを作り続けた自らの人生をどう振り返るか尋ねた。

 「80年やってきたけど、この仕事全然儲からんし、彼女の一人もできんし、ど田舎で画びょうばかり作って人生詰んだわ! 死ね! 人類みんな等しく死ね!」

 無痛の画びょう職人の精神は、これ以上ないほどにまで痛々しかった。

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